台湾の場合、医療福祉支援事業は一人あたり300万円分としています。これに対し、基金の事業開始後、基金に反対する婦援会が中心となってオークションを行い、その収益から被害者に一人あたり約50万元(約200万円)のお金を配付しました。そのさいアジア女性基金からは受けとらないという誓約書の提出がもとめられました。 さらに、98年2月には、台湾の立法院の議員たちが当局を動かして、日本政府からの「補償」の立替金として、被害者一人あたりに50万元(約200万円)を台湾当局から支給することが実現されました。 被害者たちの多くは困窮状態にあり、ほとんどの方が病気がちです。基金の償い金と医療福祉支援事業を受け取ることを希望する方々からの問合せが多く寄せられました。他方で「受取ってはいけない」という圧力を受けた被害者たちは、「もし受け取れば、生活支援金を打ち切られる」という不安を抱きました。 基金は被害者の希望に従う、支給する場合は被害者の不安を解消し、絶対に不利益が及ばないようにする、ということを大前提として事業を進めました。慎重に、法的な裏付けをしながら事業内容を詰めていくについては、頼浩敏弁護士の存在は非常に大きいものがありました。
総理の手紙を受け取った被害者の方々は、手紙を胸にあてて、「生きているあいだに、このような日がくるとは思いませんでした」とか、「結局、日本人はわたしたちを裏切らなかったのですね」と、声をつまらせながら、しかし晴れ晴れとした笑顔で言いました。喜びの気持ちを即興で歌にして歌った人もいます。
償い金を、長年の夢であった家の修理やこれまで手が出せなかった薬の購入など、自分の生活のために使った人もいれば、子どもたちに好きなものを買いあたえるという、生まれてはじめての贅沢を味わうために使った人もいました。その一方で、最後まで「わたしこわい、こわいよ」と言い続けて、償い事業を受け取る決心がとうとうつかなかった被害者もいました。 基金では97年以降、5回、台湾各紙に「償い事業」の説明を掲載しました。償い金を受け取っても国家補償を求めて訴訟を提起する権利を失わないことを明記したのも、総理のお詫びの手紙の全文を載せたのも、被害者本人のみならず、周囲の人たちに償い事業の内容、性質を正確に理解していただくためです。
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